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2013年5月5日日曜日

私たちの「コミュニケーションスキル」


 先日、セミナーでランチを御一緒させていただいた外資系企業の方から、こんなことを伺いました。

 

 「中川さん、日本は中国に追い越されます。中国人のハングリー精神はすごいです。それに比べて日本人は、今の生活に満足している。目標を持っていない」。

 

 この方は台湾出身のチャーミングな女性で、日本支社の社長をしています。この日は、中国への出張を終えて日本に戻ってきたばかりでしたので、よけいに中国の印象が鮮明だったのかもしれません。もう一つ、こんなことも話していました。

 

 「台湾でも外国人介護職を受け入れていますが、彼らの仕事のレベルはとても高く、評判が良いです」(ここでいう外国人介護職とは、フィリピンの人のことを言っているようです)。病院の中では普段聞けないお話でしたので、とても興味深く伺いました。

 

 日本でも、高齢者が増え若者の労働人口が減少しつづけています。都心では、日本人以外の人たちを見かけることが日常的になってきました。今後は更に、医療や介護の分野にも、外国の人が参入してくるでしょう。ランチをいただきながら、「その時には、どんな人が、その人たちに仕事を教えたり指導したりするのだろう」と考えました。看護の世界ではもうスタートしていることです。外国人介護職の指導・育成に、日本人の介護職やリハビリテーションのスタッフが関与する日も、遠からず訪れることでしょう(すでに、スタートしているかもしれません)。

 

 外国の人が日本で働くための参入障壁で最も大きいのは、「言葉」の課題だと言われています。特に医療・介護の分野では、「クライアントとのコミュニケーションがスムーズであること」が求められますし。

 

 

この時私は、全く別のことを思いつきました。それは、「日本語ができなくても、コミュニケーションはとれるかもしれない」。なぜなら、「クライアントに向き合った時、サービスの質を左右するのは、ノンバーバルコミュニケーション」だと思っていたからです。たとえば、こんなことがありました。車いすに乗ったクライアントを、病室に送っていた時のこと。わずかな段差の前で、私はごく自然に車いすを押すスピードを落としました。すると、その人は「まぁ、まぁ、すみませんね。気を使っていただいて」とお礼を言って下さったのです。認知症が進み、自分の年齢も、今いる場所も、時には息子の顔さえ見分けのつかない人が、(後ろから車いすを押していたので)姿も見えないはずの私の、ごくさりげない配慮をこれほど敏感に察知してくれたことに、つくづく驚き感激しました。言葉でも語調でも見た目でもない情報が、しかも、いわゆる認知症の方にこれほどビビットに伝わるなら、評価の高い外国人介護職の人が日本で働くことは、それほど非現実的なことではないかもしれない、と思ったのです。

 

 リーダーシップや自己啓発本で、「コミュニケーション」という文字が見当たらないものはありません。コミュニケーションの定義は幅が広く色々な捉え方ができますが、あらゆる分野で、「言葉」だけではないコミュニケーションスキルが求められています。もちろん、医療・介護の分野でも。

 

 

 今30歳前後の人たちが、40代前半になるころに2025年がやってきます(もう、耳にタコができるほど聞かされたことですね)。では、

 

・その時、自分やまわりがどうなっていたらOKですか?

 

 あまり重すぎる課題を前にすると、思考が停止する、と言われています。12年後のことなど、今は考えられないし考えたくもない、と言う人もいるかもしれない。でも、ランチをいただきながら私がドッキリしたように、時にはグローバルな視点で自分の足元と将来を見てみては?その時、自分や自分の職業が社会やクライアントから必要とされ、そのことによって活き活きとしているために。

 

 専門性の重要性は、言うまでもありません。その上で、基礎力を上げていく。基礎力の代表指標が「(自分や人との)コミュニケーションスキル」です。基礎力を身につけるには時間がかかりますが、将来のリーダーシップ力につながるものです。

 

 

 数ヶ月前、日本の民間病院の優れた医療サービスが高い評価を得て、本格的な海外進出を検討している、とメディアで取り上げられていました。もちろん、そのサービスの中にはリハビリテーションも含まれています。時代は、そこまで来ている、ということです。

2012年9月9日日曜日

「お話の内容」と「伝えるスキル」


久しぶりのブログ更新です。こんにちは。

 

 

 

これまでのブログ投稿では、改まった調子で硬い書き方をするのが「わたし流」と(勝手に?)決めていましたが、今回は少し雰囲気を変えてみよう、と思います。

 

理由は、先日参加した学会(「日本摂食・嚥下リハビリテーション学会学術大会」<平成24830日~91日・札幌>)での気付きから。

 

 2日間、びっしりと様々な方の講演やシンポジウムをお聞きしました。参加者の皆さんは、とても熱心。最終日のポストコングレスセミナーは夜の830分までの予定、というのに、眠っている人がほとんど見当たりません。おそらく前夜は、親しい人たち同士、ススキノあたりで旧交を温めたでしょうに。私も、頑張って参加しました。演者の先生方も最後まで熱かったですし。

 

ところで、最後の最後に気付いたことがあります。

 

それは、同じ持ち時間でも、あっという間に終わった(と、感じる)お話と、そうでないお話がある、ということです。こうして書いてしまうと、当たり前のことのようですが、それが、どうしてなのか、少し不思議な気がしました。もちろん、自分の興味がある内容なら当然あっという間なのでしょうが、ここでは興味の有無を度外視して下さい。

今までにも色々な機会に、多くの先生方のお話を伺う機会がありましたが、これほどの差を感じることはありませんでした。

 

結論から言えば、今まで以上にプレゼンテーション・スキルの高い先生が目だった、ということです。なので、これまで通りの伝え方をしている先生との格差が広がった、とステージを見上げているこちら側からは、見えてしまう。

 

最近では、スティーブ・ジョブスやアンソニーロビンズの楽しくて親しみやすい、それでいて計算し尽くされたプレゼンテーションが注目を浴びています。まさか、学術大会でそんな手法が必要か、と思われるかもしれませんが、必要だと思います。何故なら、その方が「伝わるから」です。

 

聞き手が楽しくて疲れなくて、記憶に残る、そんなお話ができれば、学習も効果的ですね。これまで医療従事者と言えば、真面目にやってきたことを真面目に伝えるのが定番でした。でも、硬くて真面目な内容だからこそ、時々息抜きをしながら(させながら)、笑いを誘うような構成を考えることも必要なんだな、と最近は特にそう思います。

 

 歯科や薬剤師の先生方のプレゼンテーション・スキル、高くなりましたね。よく、勉強されているのでしょう(もとからです、とおしかりを受けるかも?)。

 

 少し脱線するかもしれませんが、もう一例。フィットネスクラブのインストラクターから学んだこと。同じプログラムを扱っているのに、インストラクターによって、どうしてこんなにこちらのモーティベーションやパフォーマンスが変化するのだろう、ということです。一方、これを自分の立場に置き換えてみると、ハッとすることも。クライアントの持てる力を引き出すには、ただ伝えるだけでは不十分だということですね。

 

 

というわけで、自分の「言葉以外のメッセージがどんな風に伝わっているのか」について、少し意識を向けるようになりました。皆さんは、いかがですか。では。

 

 

2012年7月29日日曜日

10年後のコミュニケーションスキル


 ここ数年、私が勤務している病院ではリハスタッフが、かなり頑張って実

習生を引き受けてきました。そして異口同音に「話が伝わらない」「指導

が、活かされない」「こちらの話を聞いているのかどうか、分からない」と悩

んでいました。取り立てて問題のある学生はいませんでしたが、とにかく

最低限の課題すらしてこない、とスーパーバイザーをはじめ関係スタッフ

は頭を抱えていたのです。課題が多いのではなく、むしろ「これ以上、削る

ところがない」くらい減らしているのに、何故あっけらかんと「できませんで

した」と言えるのか理解できず、どのように本人とコミュニケーションを取れ

ばいいのか、困っていました。



 

 リハビリテーションの分野では、指導者自身が若いことも多く、実習シス

テムが看護教育と比べて未整備ですので、現場での試行錯誤はもう少し

続くでしょう。そのような中で、最近は学生の臨床実習をより良いものにす

るため、メディカルコーチングやクリニカルクラークシップなどの様々な取

り組みが紹介されるようになってきました。ともあれ、「ゆとり教育世代」と

言われる学生には、養成校も現場もこれまでとは違った対応を迫られて

いるようです。

 


 ところで、上記のようなことは、これまでにも色々なところで書かれている

と思いますので、今日は少し視点を変えてみましょう。



 これから10年後のことについて。



今でも、わずか数年前まで学生だった現場のスタッフと現役学生との間

にはディスコミュニケーションが生じています(ちなみに、ディスコミュニ

ケーションは和製英語なのだそうですね)。今の学生が臨床現場に出た

10年後、先輩後輩のジェネレーションギャップが埋まっていれば良いの

ですが、逆にコミュニケーションが取れない状態になってはいないか、と

少し心配もしています。



もっと気になるのが、クライアントとのギャップです。10年後と言えば、

高齢化社会もピークを迎え、対象のクライアントの多くは80代以上とな

ります。団塊の世代も、リハビリテーションの対象年齢になります。この

世代には高学歴者が多く、主張するべきことははっきりと主張しますし、

筋の通っていないことには断固として抗議をしてくるでしょう(何しろ、学

生運動で世の中を動かした世代ですから)。
 

セラピストには、専門知識や高い手技を発揮する前提として、クライアン

トとラポールを形成し、ニーズを把握しゴールを設定して、クライアントの

潜在能力を引き出すためのコミュニケーションスキルが必須となります。

今から、備えておく必要があるでしょう。「そんな基本的なことは、とっく

に習得している」と思っている方もいらっしゃるかもしれませんが、この

点に関しては自己評価よりも他者評価の方が厳しいことが多いのです。

私たちが挨拶程度のことをして応答があったから、と言ってそれはラポ

ールが形成された、とは言えません(クライアントの方がリップサービス

をしてくれていることもあります)。





今、手元に「10年後に食える仕事、食えない仕事」(渡邊正裕)という本

があります。内容はまさしくタイトル通り。職種によって、人件費の安い

外国に労働市場がすぐにでも移転するものと、しないものがある。医療

職が安泰か、と言えばそうでもない。医師や薬剤師など、日本語での高

いコミュニケーションスキルを必要とする職種は食べていけるが、この本

によればナースも外国人ナースにとって代わられる可能性がある、との

こと。そう言えば、今は国策としてフィリピンなどから看護師候補者を受

け入れている状況ですから、この情報には信ぴょう性があります。


 では、私たちの職種はどうでしょう。日本人のクライアントを対象としてい

ても、言葉以外のボディランゲージである程度意志伝達が図れる仕事

で、そもそも私たちの母国語でのコミュニケーションスキルが低ければ、

いつ外国人セラピストに参入されても不思議はありません。クライアント

が高齢で認知症の場合、セラピストが日本人でなくとも共感能力が優

れていれば、ノンバーバルコミュニケーションを駆使することで、ディスコ

ミュニケーションを克服できるからです。





例えば、これまでネイティブスピーカーとのリアルな英会話学習はとても

高額でしたが、今はスカイプを使うことで、フィリピンの優秀な大卒者を

相手にいつでもリーズナブルに英会話が学べます(詳しくは、ネットで

「レアジョブ」を検索してください)。同じスキルなら、リーズナブルな方が

選ばれるのは自然のこと。



あえて、自分に聞いてみましょう。自分の仕事は、日本語でなければ伝

わらないのだろうか。メラビアンの法則によれば、バーバルコミュニケー

ションはコミュニケーションの7%にすぎません。あとは、ノンバーバルコ

ミュニケーション・ボディランゲージで伝わるものです。そもそも、日本の

リハビリテーションは英語圏から輸入されたものですし。私たちのライバ

ルは、急激に増えている同業他者ですか。それとも他職種ですか。私

は、ここに外国人のセラピストも入れておいた方が良いのでは、と思って

いますが。





こうしてみると、いつまでも、内輪で「ディスコミュニケーション」に悩んで

いる場合ではないような気がしてきます。

                                                                                           


2012年6月3日日曜日

「就職説明会の有効活用」


先日、とある大学の就職説明会に行って来ました。今回はどちらかというと、慢性人材不足に悩む看護部のお伴、という役割で参加させていただきましたが、学生に会っているうちに、いくつか気付いたことがあります。





もったいない



「もったいない・・・・」。これが、率直な感想です。「私だって学生の時は右も左も分からずに、きっと同じような態度しかとれなかっただろう」とは思うものの、それでもこれだけ情報が容易に手に入り、1年時から就職ガイダンスまでしている大学もある、と聞いているのに、今でも学生は手に入れたい情報を、手に入れられるはずの機会から、ほとんど手に入れていないのではないか、とそんな風に感じたからです。

例えば、「一つお聞きして宜しいですか」と積極的にテーブルにつくだけで、ホームページやパンフレットには載っていない生の情報を、対面で得ることができます。説明者がリハビリ部門以外の人ならば、少し打ち解けた段階で「ところでこちらでの、リハビリ部門の評判はいかがですか」などとさりげなく聞いてみます。この時、もちろんネガティブな応答はないだろう、と予想できますが、それでも言外の(非言語的な)反応には、相当量の情報が含まれている可能性がありますので、少し高度なスキルですが、試してみる価値は十分にあります。聞かれる側にとっても、応募者が気にして当然の質問、という認識はありますし、逆にそれで身構えるようでしたら、何か理由があるはずです。しかも採用面接ではありませんからそれほど緊張もしなくてすみますし、採用者側とダイレクトにコミュニケーションを取るトレーニングにもなります。

ここで大切なことは、給与の額や休暇の日数、どんな患者さんを担当するのか、その人数は何人?というよくある質問以外に、知っておく必要がある情報を事前につかむ、ことです。自分が関心を持ったリハビリ部門が院内・施設内でどのような位置を占め、実績はどのくらいで、周囲との関係性は良好なのか、は現場で働くスタッフにとって、とても大切なポイントです。フリーに出入りができ、対面でコミュニケーションが取れる就職説明会だからこそ入手可能な情報ですので、是非有効に活用していただけたら、と思っています。





見学の時によくある質問



先輩たちが職場を見学する時に、よくしている質問をいくつか挙げますと、



・スタッフは何人ですか(これは、説明会でも聞かれました)。
・スタッフの経験年数は、どのくらいですか。
・学会や院外への勉強会には、参加できますか。
・新人教育プログラムはありますか。
・科内での勉強会は、どんな風に行っていますか。
・一日にどのくらい患者さんを担当しますか。
・残業は、何時くらいまでかかりますか。
・どんな疾患が、多いですか。
・こちらは、どんなタイプの病院ですか。
・有給休暇はどのくらい取れますか。



質問からは、「自分のスキルアップが、ここで図れるだろうか」ということについての関心がかなり高いことが伺われます。また、地域性があるのかもしれませんが、最初の職場で定着する、というよりは、ステップアップのための第1段階、ととらえている人の割合が、多いという印象を受けました。これらは、見学まで待たなくとも、就職説明会に現場のスタッフが来ていればすぐに尋ねられることですし、他の人と自分の関心事にそれほど差がないことを知るためにも参考になります。あるいは、就職ガイダンスでも指導されている内容かもしれませんが、今回の説明会ではそのような質問があまりありませんでしたので、一応まとめました。できれば、もう少し変わった(あなたでなければできない)質問を一つ、二つ入れていただくと、もっと色々な情報が引き出せる、と思います。





就職説明会でのペース配分と質問メモ



質問メモを準備するかしないか、は人によって様々ですが、ここに就職活動に取り組む姿勢の個人差が現れます(と、採用者側は判断します)。何故なら質問メモは、自分が説明会に参加する目的を明確にして、つかみたい情報を予め整理しなければ、準備できないものだからです。また、たとえ一つのテーブルで説明を受ける時間が10分でも、その場で質問を考えるのとメモを作っておくのとでは、収集する情報量が格段に違います。説明者は、自分の答えたいことに時間をかける傾向がありますから、1つの質問だけで、510分があっという間に終わってしまうことがよくあります。説明を受ける時に、「10分ほどお時間をいただいて、5つほどお聞きしたいことがあるのですが」と前置きをしてから質問に入れば、ある程度自分のペースで情報を収集することができます。この時、説明者には「十分自分の話したいことを話せた」と思ってもらえるように(コントロール感を持ってもらえるように)、アイコンタクトをとり、感じのいいあいづちを返します。この機会は、採用面接のリハーサルとしても活用することが可能です。本番の採用面接では、時には戦略的にプレッシャーをかけられる(圧迫面接)こともありますから、採用者側とのコミュニケーショントレーニングは、多い方がいいでしょう。学内のロールプレイでは経験のできない臨場感を味わうことができます。









 久しぶりに参加した就職説明会は、学生・参加者双方にとって、ほどよくリラックスしながら情報交換ができる良い機会、だと改めて思いました。一方、同じ大学でも学部によって、「買い手市場」と「売り手市場」の明暗がくっきりと分かれる、というシビアさを目の当たりにすることにもなりました。その中でも就職難に苦しむ学生の本気度は確かに伝わってきましたし、その誠実な態度には、好感が持てました。きっとどこかで報われるだろう、と期待しています。





みなさんに、良い機会と出会いがありますように。






2012年4月30日月曜日

聖域なき仕事(作業療法)と identity crisis


 

 最近参加したセミナーで、「自分の仕事を中学生にも分かるように、1分間で話す」という課題に取り組みました。そこには歯科医師や営業担当を始め色々な職種の人たちがいましたが、その中で「作業療法(OT)」を伝えることの難しさと、伝わらないもどかしさを実感しました。





 その理由を挙げてみますと、


1、OTの対象や内容・手段が広範囲なため、聞き手に対して一言で説明することが難しい。
2、聞き手にはOTに対する情報がないため、イメージが浸透していない。
3、聖域がないので、特徴を表わしにくい。





 言うまでもないことですが、少し説明をしますと、


1、OTの対象や内容・手段が広範囲なため、聞き手に対して一言で説明することが難しい


クライアントの年齢:新生児から高齢者まで。
分野:身体障害、精神障害、発達障害、老年期障害、etc
対象疾患:内科、脳神経外科、整形外科、精神科、神経内科、etc
病期:急性期~終末期
手段:セラピーの原動力として作業を用いる(一例)


中でも最後の「作業」の説明が一番難しい。



2、聞き手にはOTに対する情報がないため、イメージが浸透していない


 自分自身や身内の人にリハビリテーション(以下:リハビリ)を受けた、という経験がなければ、今でも「リハビリ・・・・あっ、そうですかぁ」と、あまりピンときていないという反応が返ってきます(元気な人たちが多く集まる場所では特にそう)。昔と違い、今や「リハビリ」は立派に市民権を得ている(はず)と思っていたので、この反応には驚きました。これでは、OTを話しても伝わらないのは無理もないことです。

 ささやかなリベンジとして「皆さんが私のところにいらっしゃるのは具合の悪い時ですから、仕事上でお会いしない方が良いのです」と言いましたが、これではOTの肯定的(健康的)な側面が伝わりません(失敗しました。以後、気をつけなければ)。



3、聖域がないので、特徴を表わしにくい


 聖域には「聖人地位または境地」の他に「それに触れてはならないとされている問題領域」という意味があります。私たちの仕事は「名称独占」はできても「業務独占」はできません。つまり、他者から「聖域」と認識されているものがそれほど多くないのです。同じ国家資格ではあっても、医師や看護師を始めとする「聖域」のある職種とはこの点が明らかに違います。「例えば」と前置きして「誰もが当たり前にしていること(トイレに行く、お風呂に入る)を、治療手段にしています」と言っても、恐らく聞き手には伝わらないでしょうし、私たちがしていることの大半は形の上では他職種にもできることなので(と、書くと叱られるかもしれませんが)、その中で「OT」の特徴を短時間に分かりやすく話すことは、大変難しい課題でした。





 ここまで「難しい」を連呼してきましたが、この課題は私だけのものではありません(もちろん、OTだけが特殊なわけでもありません)。むしろ、職域が未分化で聖域が狭い(あるいは、ない)ということは、多くの職種に共通しています。



 国家資格さえ取得すれば聖域(安全地帯)が手に入る、と頑張ってきた新人の中には、それが幻想や錯覚であることに気がついて、深刻なidentity crisisに陥っている人もいるかもしれません。大いに失望している人もいるでしょう。けれども、他者との差別化を図るのは今や資格ではなく、「その人」自身の課題ということになります。「曖昧さの中に居続けるには、能力がいる」と言われますが、その能力があればきっと成長していけます。

 例えば、水面に浮かんだ氷塊がいずれ消えてなくなる流氷なのか、海底にまで届く氷山なのか、初めは分からなくとも、時が流れ季節が変われば次第にはっきりしてくるように。





 お話を元に戻します。

 今回、私が学んだことは、


1、   世の中には、聖域のない仕事の方が圧倒的に多い。

2、  自分の仕事を他者に説明し理解してもらうことはどんな職種でも難しく、
 伝えるためのスキルが必要になる。

3、  必要なのはスキルだけではない。「熱い思い」は必ず伝わる。


です。


 異業種の方の前で自分の仕事を語り、視点を変えることができた、良い経験になりました。

 それでは、この辺で。

2012年2月26日日曜日

緊急時の判断とコミュニケーションスキル


 
 
 先日、とある会合で救命救急士のリーダーとお話をしました。救命救急士と言えば、一刻を争う傷病者に手当をしてERemergency room)まで搬送する緊急時対応の専門家。高いスキルと冷静な判断力、何よりもチームワークが必要です。現場で求められるスキルや、どんなふうに若手を指導・育成しているのか、について伺いました。


―どういう人がこの道を目指しますか?

A:色々です。人助けをしたい、という人から、TVで活躍しているのを見て「かっこいい」と思った人まで、動機は様々ですね。でも、実際はそんなにかっこいいものではありません。時には、傷病者から罵倒されることも。酔っ払い、とかね。ですからせっかく資格を取って職に就いても、辞めてしまう人がいるんですよ。思っていた仕事とは違う、と言ってね。


―ご苦労が多いお仕事だと思いますが。

A:傷病者への手当てもそうですし、受け入れ病院を捜すのがとにかく大変です。時間との戦いですから。これは傷病者の状態にもよりますが、救急隊と病院との信頼関係が大きく影響します。普段からきちんとコミュニケーションが取れているかどうか、ですね。正確な情報を伝えないで搬送してしまうと、その後病院から信用されなくなる、ということもありますから。結果的に人命に関わることですから、コミュニケーションスキルはとても大切です。

―コミュニケーションスキルを上げるには、どのように指導していますか。

A:きちんとした報告・連絡・相談ですね。自分の思いこみだけでは相手に伝わらない、と指導します。そこで信用を落とせばチームワークを乱し、受け入れ病院を失うことにもつながる。しかし、若手の中には「親にも怒られたことがなかった。初めて怒られました」という人もいますから、自分達が鍛えられた時のようにはいきません。注意した後は一呼吸置いて必ずフォローをするよう、主任達には伝えてあります。難しいですね。

―今企業では、部下の特性に合わせた指導・育成が生産性を上げる、と言われています。救急隊での指導は、どのようにしているのでしょうか。

A:個人の特性に合わせる、というよりは現場から学ぶことが多いので、経験を積み、先輩から学び、事例を振り返ることでスキルを上げていきます。ただ、救命救急士の定年退職などによる入れ替わりは1割以上なので、育成が大変です。


―個人差もあるでしょうが、何年くらいで一人前と言われるレベルになりますか。

A:これは、本当に個人差が大きい。入った情報を元に救急車の中でてきぱきと先取りをして準備をする者から、指示を待って動く者まで様々です。見込みのある者は1年で使いものになる。ならない者は何年たってもならない。使えるやつには、次々と仕事を任せられる。最初は非正規職員で採用しますが、見込みのあるやつには正職員というポストを与えます。彼(と、少し離れた所にいる若者を見ながら)なんかは、うちのホープとして期待しているんですけどね。



 リーダーの話の内容は、私がこれまで抱いていた救命救急士のイメージを裏付けるものでした。時間との戦いの中で、人命救助のためにベストを尽くす。個ではなくチームとして動く。救命救急のスキルが人命に直結する、など。


 意外だったのは、コミュニケーションスキルの重要性です。この場合、情報を正確に伝達することは言うまでもないことですが、そこには予想以上の個人差があり、結果的に受け入れ病院との信頼関係にも影響を及ぼしていることが分かりました。裏話として、同じ救急隊でも問い合わせる隊員によって先方の病院の受け入れ態度が変わることもあるのだそうです。「あの隊員の情報なら、信頼ができる(あるいは、できない)」という判断をされるとのこと。伝えるべき基本的な内容にそれほどの差がある、とは思えません。ただ伝え方によって情報への信頼感が変わり、その後の受け入れにまで影響を与えている、という内容は大変興味深いものでした。緊急時であるほど、それまでの信頼関係が瞬時の判断を左右する、ということはどの現場にも共通するものです。人命を左右するコミュニケーションスキル。医療安全に及ぼす個人レベルでのコミュニケーションスキルの重要性を改めて知るとともに、その指導・習得が今後の課題であることも伺われました。

 恐らく、指示を先取りし現場へ向かう救急車の中で準備ができる隊員は、受け入れ先を探すスキルも高いのではないか、と思います。救命救急士のゴールは、傷病者を安全に適切な医療機関につなぐことにあります。そこまでのプロセスがインプットされているからこそ事前の準備ができるし、受け入れ先が必要としている情報を適切に伝えることもできるのでしょう。