2011年12月17日土曜日

「コーチングの副作用」について


 コーチングには、薬やメスのような副作用がない、というのが定説です。コーチングの定義は「クライアントの行動を促進するコミュニケーションスキル」ですから、まさか副作用が伴う、とは思えません(でした)。これは私の勉強不足かもしれませんが、今まで手に取った書物にも、「副作用」や「失敗」を正面から取り上げたものはあまりなかった、と記憶しています。あったとしても、それは実施するもののスキルの未熟さゆえ、という取り扱い方です。つまりコーチが熟練しさえすれば克服できる類のもの、ということでした。



 最近私は、コーチング的な関わりをしているスタッフに危ういものを感じる、という経験をしました。それを副作用、と呼べばいいのか、アプローチのミス、と考えればいいのか、思案中です。今回は、そのことについてまとめてみます。





 Aさんは育児の真っ最中ですが、とにかく仕事が大好きで、いつも全力疾走で病院中を駆け回っています。部署内の課題に対しても積極的な提案をしてくれますし、仕事も速い。もちろん、人間関係にもそつがなく、リーダーから見れば、とても頼もしくて「できる人」。最近は、ますます行動に加速度がついて、私の期待値をいつも上回るという、パフォーマンスの高さです。しかも、家庭との両立も完璧(に見える)で、非の打ちどころがありません。でも、そんなAさんに、私はいつしか不安を覚えるようになりました。



 彼女に目標を立てるよう求めたのは私ですし、行動を促進するよう働きかけたのも私です。Aさんは、もともと上昇志向の高い人でしたが、家庭がありましたのでワークアンドライフバランスを保つために、幾分仕事のペースを落としているように感じられました。そこで、「あなたの実力は、そんなものではないでしょう」とばかりに、前を、上を見るよう勧めてしまったのです。結果的に、彼女は期待以上の働きをするようになりましたが、気がつくとまるでブレーキの効かない車のような走り方をしていました。このままでは、どこかに激突して大破してしまいそうです。



 そこで、「時々力を抜いてみたら」といったニュアンスの言葉をかけてみました。すると、彼女はものの見事に私の意図を見抜き、「お気づかいありがとうございます。それでは、少しペースを落とさせていただきます」と応答してきました。どうやら彼女は、走り続けてはいるものの、自分でもコントロールのできない状況に疲弊していたようです。いえ、あるいは、私がコーチングをしているつもりで、彼女を煽っていたのかもしれません。決して、「こうしろ」「ああしろ」と指示したわけではありませんが、ノンバーバルなコミュニケーションを通じて、私が無意識に発したメッセージは、予想以上に強力だったようです。とにかくAさんは、私の「力を抜いたら」という一言にホッとしていました。



 職場のリーダーとして、自分の期待に応えてくれるスタッフの存在はとても嬉しく、有難いものです。だからこそ、陥ってはいけない落とし穴もあることを、知らされました。



タイトルの「コーチングの副作用」は、服薬管理と同じように「用い方を誤ると思わぬ副作用を引き起こす」という今回の経験を踏まえて、つけたものです。まだまだ使い方のさじ加減も知らない初心者だ、と反省しました。「無害」と思っていたコーチングの、思わぬ一面を知ったような気がしています。