2012年6月27日水曜日

「コーチングの効果を見せてよ」


 


 ある医師との会話から。





「へえ、コーチングを勉強しているの。いつから?
僕はね、コーチングが好かないんだよ。
自分は、指示命令系のスタイルを変えるつもりがないし、
あんな、巷でやられている表層的なテクニックで対応したって、相手が
変わるとはとても思えない。研修も受けたことがあるけれど、
あんなものじゃ人は変わらないね。
この忙しいのに、『君はどう思う?』なんて悠長なこと、やってられないよ。
伝えるべきことを伝えたら、あとは本人に任せる。それだけだ。
そりゃ、話しの1%くらいには、そういう事を意識しないでもないけどね。
とにかく、コーチングっていうのはね、あんまり好まないんだ。


・・・・・・だけどね、ちゃんとコーチングができる人もいるんだろうし、
その効果を見せてくれるんだったら、そのうち、勉強してもいいかなぁ、と思うよ」。


<…つまり、コーチングに関心がある、ということですね>


「そりゃそうだよ、そうでなきゃ、こんなこと言わないよ」。





最初はどうなるか、と思っていたお話が、思いがけない方向に急展開したので、とても愉快でした。「好かない」とか「嫌いだ」とか言いながら、その割に気になっているようです。つまり、良い、と言われたから鵜呑みにするのではなく、効果を実感して自分で納得したら、勉強してやってもいい、と言っているのです。



 お話の内容では、特に「表層的なテクニック」を何度も強調されていたので、研修ではよほどそういう印象を強く受けたのでしょう。第1印象はなかなか変えられません。
関心のある先生だっただけに、残念に思います。コーチングはもうすでに、淘汰される時代に入っていることが良く分かりました。





 ところで、この先生は「効果を見せてくれるなら」と言っています。この言葉を内心、「それが難しい」と思いながら聞きました。「効果を出すことが」ではなく、「効果を証明すること」が、です。「人と人との言葉を介した変容を、誰もが納得する客観性のある方法で表現することができたら」、と思います。





 やはり、医療の世界ではエビデンスが物を言う。「コーチングアレルギー」を治すには、「とにかく、良いんです」では説得力がないということです。


 「その効果を見せてくれるなら」・・・・かなり挑戦的な言葉です。先生は、笑いながら言いましたが。


ちょっと悔しいので、リベンジを目論んでいます。








2012年6月10日日曜日

「コーチングは敷居が高い」と思っていませんか?



 近頃は、「コーチング」という言葉が頻繁に目に入り、耳にも入ってくるようになりました。その分、物珍しさや違和感もずい分減った、という印象です。ビジネスの世界ばかりではなく、看護やリハビリテーション、栄養関連の専門誌でもシリーズを組んで取り上げられているように、医療の世界でのコーチングへの認識は、しだいに高まってきています。





コーチングの定義には色々なものがありますが、よく紹介されているのが「コーチングとは、対話を重ねることを通して、クライアントが目標達成に必要なスキルや知識、考え方を備え、行動することを支援するプロセスである」(「コーチングの基本」鈴木義幸)です。とても大きな定義ですので応用範囲が広く、また、この解釈と実践には一つの正解があるのではなく、コーチそれぞれの特性が否応なく前面に出る性質のものです。それが、コーチングの難しさであり、だいご味でもあります。





 ところで私は今、リハビリテーションの仕事や職場のマネージメントにコーチングを活用しています。作業療法士として私は、教育を受けている段階から精神医学や心理学を学んできましたし、精神科での経験もありますので、心身両面からクライアントにアプローチをすることは、割合得意な方だという自負心もありました。それでも最近はことに、「コーチングを学んで良かった」と実感することが多くなったように思います(今はまだ実感レベルですので、エビデンスを出すのが今後の課題です)



 外来で通院リハビリテーションをしている患者さんを例にあげますと、こちらがコーチングマインドで関与するのとしないのとでは、終結のタイミングが明らかに違う、という印象です(この場合の患者さんとは整形外科疾患などで、自己管理をするだけの自己効力感と、回復することに目的のある人が条件となります)。お会いするたびに、GROWモデルにのっとった会話を続けていくと、ご本人の目標がしだいに具体的で明確になり、早期終結に向けてのモーティベーションがどんどん高まっていくのがよく分かります。「お任せします。治してください」というスタンスではなく、自責の意識で自己管理を行い、結果を自分で引き受ける姿勢が見て取れます。そして、後遺症も含めた結果に納得し、双方が了解をした上で、すっきりと終結することができます。もちろん、全ての患者さんに通用するわけではありませんが、これまでに出会った、同じような疾患で同じようなタイプの患者さんとなら、明らかに経過と結果が違います(これを、どう証明するのか、ですね)。多くの人に、コーチングへの興味を持っていただき、私と同じように効果を実感して、研究につなげていただきたい、と期待しているところです。



 



 コーチングは、どこにいても、どんな仕事をしていても必須のポータブルスキルです。特に医療・介護の分野では、治療を効果的に進め、職種間の連携を強化し、チームを成長させ、バーンアウトの予防にも役立ちます。



ご自分が担当している患者さんへのアプローチや、学生指導に、チームリーダーとしてのマネージメントにも、まずは活用してみましょう。まだまだ、「コーチングは、敷居が高い」と思っている人が多いようですので、あえてPRさせていただきます。コーチングに関する書籍は沢山出ていますので、情報はいつでも手に入ります。



 

お知らせ



6月23日に、コーチング協会の第14回年次大会があります。今回のテーマは、「メディカル」です。御関心のある方は、是非ご参加ください。





医療におけるコーチングの展望 日米の視点から

            「日本コーチ協会 第14回年次大会」





【詳細のご案内・お申込みページ】



http://www.coach.or.jp/2012/





 
【詳細のご案内・お申込みページ】
http://www.coach.or.jp/2012/

2012年6月3日日曜日

「就職説明会の有効活用」


先日、とある大学の就職説明会に行って来ました。今回はどちらかというと、慢性人材不足に悩む看護部のお伴、という役割で参加させていただきましたが、学生に会っているうちに、いくつか気付いたことがあります。





もったいない



「もったいない・・・・」。これが、率直な感想です。「私だって学生の時は右も左も分からずに、きっと同じような態度しかとれなかっただろう」とは思うものの、それでもこれだけ情報が容易に手に入り、1年時から就職ガイダンスまでしている大学もある、と聞いているのに、今でも学生は手に入れたい情報を、手に入れられるはずの機会から、ほとんど手に入れていないのではないか、とそんな風に感じたからです。

例えば、「一つお聞きして宜しいですか」と積極的にテーブルにつくだけで、ホームページやパンフレットには載っていない生の情報を、対面で得ることができます。説明者がリハビリ部門以外の人ならば、少し打ち解けた段階で「ところでこちらでの、リハビリ部門の評判はいかがですか」などとさりげなく聞いてみます。この時、もちろんネガティブな応答はないだろう、と予想できますが、それでも言外の(非言語的な)反応には、相当量の情報が含まれている可能性がありますので、少し高度なスキルですが、試してみる価値は十分にあります。聞かれる側にとっても、応募者が気にして当然の質問、という認識はありますし、逆にそれで身構えるようでしたら、何か理由があるはずです。しかも採用面接ではありませんからそれほど緊張もしなくてすみますし、採用者側とダイレクトにコミュニケーションを取るトレーニングにもなります。

ここで大切なことは、給与の額や休暇の日数、どんな患者さんを担当するのか、その人数は何人?というよくある質問以外に、知っておく必要がある情報を事前につかむ、ことです。自分が関心を持ったリハビリ部門が院内・施設内でどのような位置を占め、実績はどのくらいで、周囲との関係性は良好なのか、は現場で働くスタッフにとって、とても大切なポイントです。フリーに出入りができ、対面でコミュニケーションが取れる就職説明会だからこそ入手可能な情報ですので、是非有効に活用していただけたら、と思っています。





見学の時によくある質問



先輩たちが職場を見学する時に、よくしている質問をいくつか挙げますと、



・スタッフは何人ですか(これは、説明会でも聞かれました)。
・スタッフの経験年数は、どのくらいですか。
・学会や院外への勉強会には、参加できますか。
・新人教育プログラムはありますか。
・科内での勉強会は、どんな風に行っていますか。
・一日にどのくらい患者さんを担当しますか。
・残業は、何時くらいまでかかりますか。
・どんな疾患が、多いですか。
・こちらは、どんなタイプの病院ですか。
・有給休暇はどのくらい取れますか。



質問からは、「自分のスキルアップが、ここで図れるだろうか」ということについての関心がかなり高いことが伺われます。また、地域性があるのかもしれませんが、最初の職場で定着する、というよりは、ステップアップのための第1段階、ととらえている人の割合が、多いという印象を受けました。これらは、見学まで待たなくとも、就職説明会に現場のスタッフが来ていればすぐに尋ねられることですし、他の人と自分の関心事にそれほど差がないことを知るためにも参考になります。あるいは、就職ガイダンスでも指導されている内容かもしれませんが、今回の説明会ではそのような質問があまりありませんでしたので、一応まとめました。できれば、もう少し変わった(あなたでなければできない)質問を一つ、二つ入れていただくと、もっと色々な情報が引き出せる、と思います。





就職説明会でのペース配分と質問メモ



質問メモを準備するかしないか、は人によって様々ですが、ここに就職活動に取り組む姿勢の個人差が現れます(と、採用者側は判断します)。何故なら質問メモは、自分が説明会に参加する目的を明確にして、つかみたい情報を予め整理しなければ、準備できないものだからです。また、たとえ一つのテーブルで説明を受ける時間が10分でも、その場で質問を考えるのとメモを作っておくのとでは、収集する情報量が格段に違います。説明者は、自分の答えたいことに時間をかける傾向がありますから、1つの質問だけで、510分があっという間に終わってしまうことがよくあります。説明を受ける時に、「10分ほどお時間をいただいて、5つほどお聞きしたいことがあるのですが」と前置きをしてから質問に入れば、ある程度自分のペースで情報を収集することができます。この時、説明者には「十分自分の話したいことを話せた」と思ってもらえるように(コントロール感を持ってもらえるように)、アイコンタクトをとり、感じのいいあいづちを返します。この機会は、採用面接のリハーサルとしても活用することが可能です。本番の採用面接では、時には戦略的にプレッシャーをかけられる(圧迫面接)こともありますから、採用者側とのコミュニケーショントレーニングは、多い方がいいでしょう。学内のロールプレイでは経験のできない臨場感を味わうことができます。









 久しぶりに参加した就職説明会は、学生・参加者双方にとって、ほどよくリラックスしながら情報交換ができる良い機会、だと改めて思いました。一方、同じ大学でも学部によって、「買い手市場」と「売り手市場」の明暗がくっきりと分かれる、というシビアさを目の当たりにすることにもなりました。その中でも就職難に苦しむ学生の本気度は確かに伝わってきましたし、その誠実な態度には、好感が持てました。きっとどこかで報われるだろう、と期待しています。





みなさんに、良い機会と出会いがありますように。