2012年3月17日土曜日

目標設定シートをキャリアアップに活かす



 「すみませんが、これ(目標設定シート)を作って実行しても、給料が上がらなければ意味がありません」。これは、2年前に目標設定面接で、あるスタッフから言われた言葉です。その時私は、内心で(もちろん、がっかりはしましたが)「この人が、こういうのも無理はない」と思いました。

 何故なら、その人には家族がいて、到底今の収入では生活を維持できない、ということが明らかだったからです。その人が最も価値を置いているのは、「収入の多寡」でした。結局その人は、在職中にいい仕事をして仲間に惜しまれながら、転職をしていきました。新しい職場は、今よりも高い収入が得られ、しかも通勤時間が短くなります。「いいところが見つかって、良かったですね」と言った時の、その人のホッとした表情が、今でも忘れられません。もう一つ忘れられないのが、「他に不満はないんです」という言葉でした。その人は、現実検討能力が優れていて、世の中を知らずにないものねだりをして勝手に失望する、というタイプではありません。この職場の「強み」も「弱み」も知った上で、「収入以外の不満はないんです」と言いました。その一言に救われた半面、個人のスキルや頑張りが結果的に上層部からの評価につながらない体制を、つくづく残念に思いました。それは、現場の責任者である私の一次評価に対する上層部の信ぴょう性が低い(つまり、「あなたの評価は、甘い」)ということでもあったのですが。







 ところで、目標設定シートは本当に個人にとって「意味がない」のでしょうか。私は、コーチングを個人面接に取り入れるようになってから、このシートは個人のキャリアアップに活かすことができる、と実感するようになりました。





 <個人にとっての目標設定シートの意味>



 面接は、目標設定シートを軸として進めます。自分の設定した目標の妥当性や部分修正が必要かどうか、進捗状況はどうなっているか。年間56回はそれぞれのスタッフが、面接の場で自分の目標までの到達度を確認しています(中には、面接の場で初めてシートを見返して、内容を思い出している人もいますが)。

 面接では、「個人目標の1番目については、○○○を続けて****割はできましたので、必達水準はクリアした、と思いますが、目標水準には今一歩届いていません」といった内容のプレゼンテーションをしてもらっています。当たり前のことのようですが、自分で立てた目標に責任を持ち、常に意識をして行動を起こしている人ほど成長のスピードは速くなります。たとえ、給与が上がる評価にはつながらなくとも(その古い組織体質の問題点はこの場では触れませんが)、このシートを軸にして行動を起こすことが、自分自身のキャリアアップにつながる、ということをスタッフは理解してきたように思います。面接を通じて、自分のキャリアプランを考え、現実とのギャップを確認し、準備を整え、歩き出す。

 もちろん、面接やシートの位置づけには個人差がありますから、「活かし方」も人それぞれです。現状をゴールとしている人にはあまり機能しないかもしれません。ですが、現状で満足していては、



「本人が望むなら、一生この仕事で食べていってもらいたい」という私の目的が果たせませんので、あくまでも本人のレベルに合わせることを前提に、このアプローチを続けていくつもりです。



 

 リハビリテーションの関連職種は、転職が多いことで知られています。転職の理由には、これまでのキャリア志向、家庭の事情、職場への不適応、に加えて、職場の経営が傾いた、リストラにあった、という事情も散見するようになりました。若い有資格者がどんどん増えていく中で、現場で働くスタッフは多かれ少なかれ自分の将来に不安を感じています。

 一方、転職をせずに安定した職場で勤続すればいいのかと言えば、同じ職場で長く勤めた人からは異口同音に「いまさら、他の職場には怖くて行けない」という言葉が聞かれます。当然のことながら年齢が上がるほど新しい環境に入って行くリスクは高まりますし、残念ながら同じ職場で終身雇用される人は、ごく一部の限られた人です。この現実から目をそらさずに、いつでもどこでも自分を活かせる状態にしておくことは、自分自身への責任、と言えば言い過ぎでしょうか。でもこれは、私が(有資格者が少ないために)「金の卵」と言われた時代からこの仕事をしてきて、様々な理由で転職をしてきたからこそ、言えることだと思っています。





 「給料が上がらなければ、目標設定シートは意味がない」。今なら、「あなた自身で、将来を改善できる力をつけるためのシートです」と言えます。



 グループ内の他院から転勤してきたスタッフによれば、目標設定シートを書いたことがそもそもほとんどなかった、とのこと。転勤からわずか2カ月。今回の振り返り面接で、彼が自分の設定した目標を意識して、日々行動をしていることが分かりました。この先の成長を楽しみにしています。