「ストレス」はよく使われる言葉ですが、抽象的で大きすぎるテーマですから、ここでは手の平サイズにチャンクダウンしてから、ストレスコーピングとコーチングの関係について、考えていきます。
まず「ストレス」について。元々工学由来の言葉で、物体に外からの力(ストレッサー)が加わった時、物体には元の状態に戻ろうとする作用が働くため緊張が生まれる。これを「ストレス状態」と言います。
このストレスに耐える力が「ストレス耐性」です。この耐性には個人差があるということは、言われてみれば当たり前のことのようですが、普段はあまり気がつかないことが多い。
たとえば、あなたと私がゴム風船だったとしましょう。ストレスがかかった時、あなたは適度に空気が抜けた弾力性のある状態なので、多少押されてもすぐに元の形に戻ることができます。一方、私は極限まで空気を張り詰めたパンパンの状態なので、同じ外圧でもあっという間に裂けてしまいます。もちろん、元の状態には戻りません。
ストレスを受ける私たちの状態(ゴム風船なら空気の張り具合、余裕があるかないか)や、タイプ(ゴムではなくて、紙風船だったら?)によって、同じストレスでも受ける影響が全く違うことを、押さえておきましょう。
ふと・・・・、私が風船じゃなくて、生卵だったらどうなるか、と空想してみました。卵の殻は一見硬そうですが、外力には脆いですね。適度な弾力性があるゴム風船になりたい、と思います。
次に私たちにとって問題になるのは、こちらの耐性を上回る強さのストレスがかかった時です。ストレスにはその強さによって、自分に対処できるものとできないものがありますが、ここで「対処が可能かどうか」を決めているのは、私自身です。
周りの人の中に、何か事が起こった時「大丈夫、想定内」という人と、「むり、むり、もう駄目!」という人がいませんか。
よくやってしまう「あの人のせい」「何かのせい」(他責)は、どうしても解決できない問題に直面した時に、自分を守るため使ってしまう方法です(他人ごとではなく、私もついつい・・・・・)。でも、これでは何も問題は解決しません。何かよい方法はないのでしょうか。
ここでは、ストレスコーピング(対処行動)として、2つの方法を御紹介します。
第1. 状況を自分で改善できると感じられている時は、「問題焦点化対処行動」(ラザルス.フォルクマン)を取ります。これは、ストレッサーそのものを取り除こうとする行動です。
「ストレッサーを取り除く」ために、現状を分析し、問題解決のための方法を見出し、そのため知識・技能・を習得、実行します。この流れは、コーチングと一致する問題直視型の方法です。
たとえば電車が何らかのトラブルで止まった時、「職場に遅れずに到着するために」、復旧までの所要時間を情報収集し、最短コースで到着できる振替輸送の電車を確認し、職場に連絡をする。この行動によって、かなりストレスから解放されます。
一方で、情報収集の手段がなく、他社の電車を利用する手立てもないような場合、すなわち、「自分でこの状況を改善させることが出来ない場合」には、どうすればいいでしょうか。
第2. この場合は、「情緒焦点型対処行動」を取ります。これは、ストレスによっておこる不快感情を解消することを目的としています。
たとえば、ストレッサー(電車のトラブルで、職場への到着が遅れる)についてなるべく考えないようにする。そのために本を読んだり、音楽を聞いたりしながら、気を紛らわして復旧までの時間を過ごす、などです。
これら2つの方法は、一般的に両方を組み合わせて用いられることが多い。何か問題(ストレッサー)が生じた時は、まず感情を調整してから、落ち着いて事に当たる、ということです。
上記の第2の「情緒焦点型対処行動」にも、コーチングは機能しています。たとえば、感情を調整するために、起こっている出来事の「問題点」だけではなく、むしろこのような時は「ポジティブな側面」に意識を向け、すでに出来ていることを認める。また、一時的に気分転換をして、問題そのものから距離をとることによって、その人のものの見方(視点)が変わる可能性があります。
そうすれば、「そうだ、電車が止まっている間に、今日のTODO リストを作ってしまおう」という発想も生まれるかもしれません。こういう場合は、セルフコーチングです。
もっとも、もっと切実で重大な課題の渦中にいる人は、ここまで落ち着いて自分の感情を扱いきれないかもしれません。このような時にコーチングマインドを持った人が、感情を調整するための働きかけをしてくれると、本人はストレスへの対処行動を促進することができます。
ストレスコーピングには、コーチングが機能します。自分で状況を変えられる場合も、変えられない場合も。
参考文献:バーンアウトの心理学(サイエンス社、久保真人)